研究内容


 我々のプロジェクトでは、アフガニスタンが自国の力で持続的食糧生産を実現するための「コムギ育種システムの社会実装」を目標として研究に取り組んでいます。国内からは横浜市立大学・木原生物学研究所を中心に、理化学研究所・植物科学センターと鳥取大学乾燥地研究センター、アフガニスタンからは農業灌漑牧畜省・農業研究所が加わっています。その他、国際トウモロコシ・コムギ改良センター(メキシコ)や、国際乾燥地農業研究センター(シリア)などの国際機関とも連携して研究を進めています。


Ⅰ. アフガニスタン向け育種素材・育種技術の開発


1.アフガニスタン・コムギ遺伝資源の多様性評価
 保有するアフガニスタン在来種の特性を調べるために、日本の管理された圃場で農業関連の主要な特性の調査を進めています。また遺伝資源の効率的利用を推進するために、DNA多型解析による遺伝的多様性の評価を行い、有用変異を網羅するアフガニスタン遺伝資源のセット(コアコレクション)の作成を進めています。次年度以降は、これらの系統をアフガニスタンへ里帰りさせて、アフガニスタン現地での特性評価を行う予定です。

2.不良環境耐性の高いコムギ遺伝資源の育種利用技術開発
 アフガニスタンは日本のように灌漑設備が整っておらず、肥料も十分に供給されていません。このような状況下で、持続的食糧生産を実現するためには、遺伝資源から優れた不良環境耐性(耐旱性、耐塩性、耐病性、栄養不良環境耐性等)を有する系統を見出し、それらを素材として不良環境下でも十分な収穫が期待できる新品種を開発する必要があります。我々は、不良環境耐性を有する系統を効率的に選抜するためのシステムを、資材供給が十分ではないアフガニスタンでも行えるように整備を進めています。また効率的な品種開発を行う上で不可欠な、DNAマーカーの整備を進めています。


3.近縁野生種の潜在的能力を導入した新規コムギ育種素材の開発
コムギの野生種や近縁種の中には、栽培種のコムギが持たない優れた不良環境耐性能を有する種が存在しています。例えばオオムギ近縁種であるHordeum bulbosumは、球根のような組織を形成することで生育には適さない時期を球根のかたちで乗り切ります。またコムギの近縁野生種であるハマニンニクは、海岸に自生し高い耐塩性を有しているほか、土壌中の硝酸化成作用を抑制する能力を持つことが明らかにされています。このような、コムギ近縁種の優れた形質を栽培種のコムギ等に導入することで、優れた環境耐性を有する作物の開発に繋がることが期待されます。


4.アフガニスタンコムギ遺伝資源の保全と育種利用
 育種システムを構築する上で、コムギ遺伝資源の現状把握に加え、提供された素材や技術を駆使し育種を進める人材の育成が不可欠です。本プロジェクトでは、アフガニスタンにおけるコムギ遺伝資源の現状を把握し、それらを保全して有効利用するため体系的な遺伝・育種学的調査研究を実施すると共に、MAILやカブール大との共同研究により、アフガニスタンにおけるコムギ遺伝資源のジーンバンク機能の整備と、遺伝資源を保全していく人材の育成を進めていきます。

II. 最先端技術を用いたコムギ遺伝資源の特性解明


1.アフガニスタン品種開発に必要な収量につながる形状の計測
 X線CT装置を用いた精密な種子形状の3次元データを計測し、アフガニスタンコムギの在来種・近縁野生種系統の種子形状を明らかにします。計測データと各系統の表現型や遺伝型との相関解析を行い、収量の増加に繋がる有用な形状の同定や、栽培環境が種子形状に及ぼす影響を明らかにすると共に、育種に必要なDNAマーカーの開発を行います。

2.アフガニスタン品種開発に必要な元素組成の計測
 エネルギー分散型X線分析装置を利用して、アフガニスタンコムギの在来種・近縁野生種系統について網羅的に元素組成(K, P, Siなど)を解析する事により、アフガニスタンの土壌環境に対する不良環境反応性を診断するための研究基盤を構築します。またDNA多型データを利用して有用元素を高蓄積させるDNAマーカーの決定や、元素組成に基づいたフェノタイピングなどを行っていく予定です。

III. コムギ遺伝資源の能力開発


1.コムギ祖先野生種 Aegilops tauschiiの評価
 コムギ祖先野生種 Aegilops tauschiiがもつ耐乾性等の形質を支配する量的遺伝子座を明らかにし、優れた不良環境耐性を有するコムギ品種の作出に向けた育種素材の開発を行います。

2.高リン効率系統の育成
 これまでに育成または分与を受けた異種染色体添加コムギ系統の中から、リン利用効率や吸収特性の優れた系統を選抜・解析を行い、 高リン効率のコムギ品種の作出に向けた育種素材の開発を行います。

3.アフガニスタン品種開発に必要なステロール蓄積品種の開発
 植物ステロールには、メタボリックシンドロームを治療・予防効果するものが存在します。アフガニスタンコムギの在来種・近縁野生種系統について植物ステロール類のターゲットプロファイリングを行い、機能性ステロールの質あるいは量が優れた系統を試みます。選抜された系統を利用し、栽培特性に優れ、かつ機能性ステロールを有する付加価値の高い品種の育成を目指します。


関連機関

横浜市立大学木原生物学研究所



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